新型コロナの爆発的な感染拡大により政府は1月7日、緊急事態宣言の再発出をせざるを得ない事態に追い込まれました。翌日1月8日、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典、大村智、本庶佑、山中伸弥の4氏が政府に対し、以下の5項目の実行を求める緊急提言を行いました。
(1)医療機関と医療従事者への支援を拡充し、医療崩壊を防ぐ。
(2)PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する。
(3)ワクチンや治療薬の審査および承認は、独立性と透明性を担保しつつ迅速に行う。
(4)今後の新たな感染症発生の可能性を考え、ワクチンや治療薬等の開発原理を生み出す生命科学、およびその社会実装に不可欠な産学連携の支援を強化する。
(5)科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望に立った制度を確立する。
これらの提言のうち、特に(1)と(2)は、昨年の感染第1波で大きな問題となったことであり、本来ならば昨年5月に緊急事態宣言が解除された後に、実現のための具体的な施策を進めていなければならなかったことです。昨年の秋冬にかけて、寒冷化のために感染の第2波、第3波が来るであろうということは、多くの専門家が警告していました。
にもかかわらず政府は、提言にあるような感染拡大に備えるための具体的な対策を何も取らず、「感染拡大は起こらないだろう」という「科学的な根拠のない楽観的な見通し」に基づいて、落ち込んだ経済の回復を最優先に「GoToキャンペーン」を強行し、全国的な感染拡大を招いてしまいました。菅首相は「GoToが感染を拡大させたエビデンスはない」と強弁しましたが、逆に「GoToが感染を拡大させなかった」というエビデンスもないのですから、これは論理的に反論になっていません。
直接のエビデンスはなくても、常識的に考えて、ウィルスは人が運ばなければ感染を広げることは出来ないのですから、GoToで「人々の移動」を促進すれば、感染が拡大する可能性があるのは当たり前のことです。そのことは昨年12月に出された「GoTo参加者は、参加しなかった人たちよりも感染を疑わせる症状の発生率が2倍程度高い」という東大/UCLAの研究論文(政府は、この研究論文は「査読前のものだから」という理由で認めませんでしたが)や、ヨーロッパでもクリスマス休暇での人の移動で感染が拡大したことを示す研究結果が発表されるなど、間接的な証拠はいくつも示されています。
日本のこれまでの新型コロナ感染症対策は「ウィズコロナ」というスローガンを掲げて、「感染症対策と経済を両立させる」ということを基本戦略としてきました。しかし現在、急激な感染爆発というべき緊急事態に直面して、その基本政策の誤りが多くの人に認識されてきています。ニュージーランド、台湾など、コロナ対策で成功している国は例外なく、一度徹底した感染症対策によって感染者をゼロ近くまで抑え込んだ国です。つまり「ウィズコロナ」は間違いで、「ゼロコロナ」を目標とした徹底した対策を取っていかなくては、結局は何度も感染拡大を繰り返し、結果的に「ゼロコロナ」戦略よりは経済が蒙るダメージも大きくなってしまう。「ゼロコロナ」を目指す政策こそが、結果としては経済を回復させる最善の道である。そういうことが明らかになってきました。政府はこれまでの政策の誤りを認め、今こそ、「ゼロコロナ」戦略に転換するべきです。
1月25日の朝日新聞の全国世論調査では、菅内閣の支持率は前回の39%から33%に続落、不支持率は35%から45%に急上昇。政府の新型コロナ対策を「評価しない」は全体で63%(内閣府支持層では87%が「評価しない」)、緊急事態宣言については80%の人が「遅すぎた」と回答。今の政府は、新型コロナ対策については「機能不全」を起こしている、と考えざるを得ません。専門家の意見や、科学的な知見を無視し、必要な実効性のある対策を取ることができない無策・無能な政府に、これ以上、私たちの命と暮らしを預けるわけにはいきません。
感染症対策の基本は「検査(感染者の発見)と隔離」であるということは、感染症学の常識であるにもかかわらず、日本ではこのことが無視され続けてきました。5つの提言の中の「PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する」という対策は、この日本固有の問題を打破するためのものです。「PCR検査の大幅な拡充により、無症状の感染者を見つけて適切に隔離・保護し、医療につなげる」という対策は、すでに世界的にその有効性が証明されており、社民党は従来から「何時でも、どこでも、何度でも無料のPCR検査を」という政策提言をしてきました。
社民党は今後も、他の野党と連携して、ノーベル賞受賞者4名の提言に示されるような、科学的知見に基づく具体的な、実効性のある新型コロナ対策の実現を求めていきます。